クラフテッドWorldへようこそ

HP上で私が書いて行く内容は、年代別に順を追ってお話をするわけではないので、判りづらいところも多々あると思います。少しでも全体の流れをご理解しやすいように、当時の最上級コンポ「シュパーブ」に焦点をあて、時代を区分してみました。これより以前の70年代前期さらにそれ以前の時代については、私もまだ入社しておらず、話の種になるような話題も自分自身ほとんどありません。このへんをご理解頂いて、このコーナーを読んでいただければ、幸いです。


サンツアーストーリー

 

第5話 『エアロブーム時代の商品戦略』

1984年頃に火がついた「エアロブーム」は、自転車業界全体を巻きこんで、一時はとんでもない方向へ向かってしまいます。「空気抵抗」を減らすと言うお題目で、自転車部品や用品などの多くが、全て滑らかな曲線を持つ「流線型」のフォルムになってしまいました。新幹線の車両や、飛行機の翼のようにとにかく、なんでもかんでも「流線型」です。なかには、風洞実験室で自転車を走らせている絵や写真まで、雑誌広告される始末です。当時、業界には空気抵抗、流体力学に関するしっかりとした認識や知識はほとんど無く、詳しい人達から見ると、とんだ「茶番劇」だったに違いないのです。あるメーカーなどは、ボトルの形までペシャンコにして、当時はさながら「尿瓶」(シビン)のようだと酷評されたものです。(写真4参照)

シマノが火をつけた「エアロブーム」ですが、サンツアーとしては同じレールの上に乗るわけにはいかず、模索していた時に、K社長は妙案を出してきます。それが「マイクロライト アンド エアロダイナミクス」というコンセプトでした。
これは「いたずらに、うわべだけのエアロ化を考えるのではなく、実質的に空気抵抗やもろもろの抵抗を減らすには、まず小さくそして軽くしてゆくことが、結果的に空気抵抗の軽減につながる」という考え方でした。
結果的にこの考え方は業界やユーザーに広く受け入れられ、成功しました。
このコンセプトを具体的にどう製品に反映したかということですが、まずフロント変速機の取付けバンドのエンドレス化が挙げられます。マニアの方ならご存知だと思いますが、シュパーブ以前のサンツアーの最上級コンポの「サイクロン」のシフトレバーに採用されていたエンドレスバンドの構造を利用して、取付けバンドのめざわりな突起類を無くしました。
ガード(羽根)部も、よりコンパクトに小さくなりました。(写真3,5参照)
リア変速機に関しては、リターンスプリングの大幅なボリュームダウンがまず挙げられます。
従来、リア変速機のリターンスプリングはねじりコイルバネが多く使われていましたが、この場合、ある程度の長さが必要になります。これに変わって、シュパーブプロにはゼンマイバネが使用されました。ゼンマイバネは、昔からおもちゃや時計、オルゴールなどに使用されていて、ポピュラーなバネです。この場合、バネのボリュームはバネの巾の長さだけで、自転車の進行方向に対しては前面投影面積が減らせて風圧抵抗に対して有効でした。ただ、板状のバネの擦り合わせによる摩擦はガード部の滑らかな動きを阻害し、担当者はその点に大変苦労をしていました。(写真6参照)

この頃から、部品のデザインは肉抜きの穴などは少なくなり、どの製品ものっぺりとした感じになってきます。この傾向は現在のデザインにも継続しているようです。以前はサンツアーもシマノもカンパのイメージから、なかなか脱却できなくて、変速機等のデザインも細かい装飾的な加工が多く見られました。イタリアのカンパのデザインはローマ時代の建築物や彫刻をみればおわかりの通り、やはり「石」の文化なんですね。木と紙の文化を持つ日本人がいくら頑張っても、やはりどこかが「ダサく」なるのは致し方ないようです。
今回はここまで。

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